ビエントさんのたまたま偶然なんとなく見聞録

たまたま偶然出会いなんとなく気になった人(や物事)を記録しています。

忘れてきたおっぱい

看護学生時代
実習でたくさんの人と出会った。

もう何年も経って
名前を覚えている人は
ほんの数人しかいない。
その中の誰かを思い出すことも
ほとんどない。

在宅看護実習は、
面白い人との出会いの連続で
とても楽しかった記憶がある。

新築のタワーマンション
一人で暮らしていた
素敵なおばあさんがいた。

足腰が悪く、入浴の見守りが必要だった。
ゆっくり丁寧に体を洗い、
サーモンピンクのぴかぴかした湯船につかる。
ふくよかなたわわな胸のおばあさんだった。

看護師さんは、とっても優しい
お姉さんとおばさんの中間くらいの
年齢の人だった。
実習で来ている学生の私に、
足が寒かろうと、
シャワーでお湯をかけてくれた。

看護師さんが、おばあさんに
「西村さん。
 素敵なおっぱいで、うらやましい。
 豊かで、のびのびしたおっぱいだわ。」
と言うと、おばあさんは、
「あら、あなたも素敵なおっぱい
 持ってるじゃない」
と答える。

「ううん。私は、おっぱいないから」

すかさず、おばあさん
「あら、おうちに忘れてきたの?」

お風呂は、三人の明るい笑い声
と湯気に満たされる。
「そうみたい、忘れっぽいからなぁ」
「あらあら」

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私は、卒業後
急性期病棟で看護師をした。
忙しい日々にふと、この時の
おばあさんと看護師さんのことを
思い出すことがあった。

看護実習で、学生は邪険にされ
不当に冷たい扱いを受けることが多い。
そのぶん、ほんのささいな平和な瞬間が
貴重な大切な思い出として
深く刻まれるみたいだ。